harunoya


hotel & atelier
2021
renovation




photos by kei murata




所在地:東京都
用途:住宅兼宿泊施設
構造・構法:木造軸組み構法
階数:1階
敷地面積:94.41㎡
建築面積:29.62㎡

担当:山田紗子、中村裕太
構造:TECTONICA
施工:小泉工務店


竣工年:2021年



Site: Tokyo Pref.
Kind: House and Atelier
Structure: wooden structure
Story: 1
Site Area: 94.41㎡
Building Area: 29.62㎡

Project team: Suzuko Yamada, Yuta Nakamura
Structure Engineer: TECTONICA
Construction: Koizumi Construction Firm


Year: 2021

はるのや - 増幅する世界 -


東京の世田谷に羽根木という場所がある。昔から樹木が生い茂り、鳥がたくさん羽を落とすということが由来となっている。今でも都内では珍しく背の高い樹木が家々の庭先に残り、足元や頭上ではいつも虫や鳥の気配を感じる。その羽根木にある古い民家を宿泊施設に改築することになった。元々茶室だったその小さな小屋は、三方向をつつましくはあるが緑豊かな庭で囲まれている。古い建具のゆらめくガラスにその緑がぼんやりと反射して、それを室内から眺めると柔らかくとても綺麗だった。改築によって、外の気配が建物にじんわりと入ってくる様を、より鮮やかに体験できると良いと思った。


ディジャリドゥという楽器がある。オーストラリアのアボリジニの伝統的な楽器で、もともとシロアリに中身を食べられたユーカリの流木を用いて作られていたらしい。この楽器はくちびるを震わせながら息を吹き込むと、非常に不思議な音が響く。シロアリが食い尽くしてできた空洞の中で音が共鳴し、もともとの音がより高い倍音となって放出される。音と音がふるえ、ぶつかりあい、響き合うことで、人工的な音とは言い難いなにか不思議な音色となるのだそうだ。このディジャリドゥの演奏を聴く機会があった。それは楽器の音というよりは地響きのような、自然界でおこる音のようなもので、それがディジャリドゥ奏者によって、あるリズムをもって語り掛けるような響きとなり、それらが連なり、音域を変えていくことで音楽となっていく。音楽の前に音がある。音の前にちいさな振動がある。それらが共鳴し合い、増幅して、意思をもつことで音楽となる。音楽のはじまりを見たような気持ちになった。


古民家のリノベーションの設計時にこのようなことを考えていた。建物の外にはささやかな庭があり、そこに風が通ると草木がざわざわと楽し気に揺れて、太陽の光がちらちらと壁面に映り込んでいた。この光や揺れる枝葉の形、色、それらの存在が室内にも入り込み、その中でまた増幅していくような空間の作り方ができないだろうか。


古民家の構造材は幸いかなりきれいな状態で残っていて、木の柱や梁などの横架材はほとんどがそのまま使用できた。また構造的に弱い部分については新しい木材を入れることになった。リノベーションは、古い材料を使いまわしたり、新しい材料が加わったりと、小さな空間を切ったり貼ったりするような作業である。そこで新しく入れる材料はなにかしら光や音を反射するようなものや仕上げ方を選んでいる。たとえば、構造を補強するために用いる構造用合板というものがある。薄い針葉樹の単板がラミネートされたもので、表面は独特の木目や節が出るのだが、その図柄を残しながらも、表面に特殊なフィルムを密着させることで、目の前の風景がゆらゆらと映り込むようにした。木目と風景がちょうど半分半分くらいに浮かび上がる。庭には、カーテンをかけている。スポーツウェアの裏地に使われるようなメッシュの生地を重ね合わせ場を柔らかく囲うと同時に、小さな光の粒子をたくさん纏わせようと考えている。またカーテンが風にたなびき、そこにある空気の流れを目に見える形として風景に取り込みたい。現場では、使用するマテリアルとそれらの出会い方1つ1つを慎重に確認しながら、立ち現れる空間と常に見合い、仕上げの作業を続けた。それぞれが共鳴し、増幅された光や色の中に心地よい空間を提案した。








This was a restoration project transforming a traditional Japanese house into an accommodation facility. The little hut that originally served as a tea house was plain, but surrounded by a lush garden. The shimmering glass in the old window frames gave an indistinct view of the greenery, and seen from the interior it looked like a mass of soft light.



The glossy interior and exterior walls, floors, pillars, and beams further amplified the shapes and colors from the branches and leaves swaying outside, as well as patches of light inside and outside the house. We affixed a special film to the wall surfaces of the structural plywood used for seismic reinforcement, and shimmering scenery was reflected on the pattern of the grain.

Outside, we surrounded part of the garden with a curtain and created a space extending from the room. Layers of mesh fabric in the curtain cast many small dots of light. The garden scene is transformed as the curtain opens, closes, and hangs in the wind, flowing into the interior. Light coming in through the windows connects the pillars, beams, walls, metal fittings, tiles, curtains, and furniture, and a comfortable space emerges amid the amplified colors.


2022-01-12



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Suzuko Yamada Architects, Inc. Tokyo, JAPAN